書籍解放戦線

ヒロが読んだ書籍の考察・感想を書くブログ。

宇佐見りん『推し、燃ゆ』を読んでみた。【感想・考察】

芥川賞になった、『推し、燃ゆ』を読んでみた。

 

 

まず、率直な感想は、自分が物語の主人公の感情に入り込むことはなかなか難しい作品という印象を受けた。

しかしながら、読み進める中で主人公の状況などを理解していくと、何とも言えない感情がこみあげてくる。そしてラストが近づいてくるにつれて、心に響くものを感じた。

 

この作品の「推し」という大きなテーマは、現代の若者世代で広がっているものであるが、実はこの推しというのはなかなか理解するのは、かなり難しい。恋愛対象とはまた違う関係性や距離感を、この作品は秀逸に表現していてとても面白かった。

 

 

あらすじ

序盤

 まず、物語冒頭で「推し」こと上野真幸がファンを殴ったということを主人公あかりが知るというところから始まる。

そこから、あかりが上野真幸の「推し」のなる経緯やあかり自身がある種の障害を持っており、日常生活をみんなと同じように送ることができないということが明らかになる。

しかし、そのようなあかりでも、「推し」を関わることであれば何でもでき、必死に「推し」に関すること覚え、「推し」を解釈しようとする。物語に節目節目で、あかりが「推し」について書いたブログが載せられており、そこから「推し」への理解を深めようとする姿が表されている。

中盤

物語中盤では、あかりが「推し」に関すること以外は全くうまくいかず、「推し」のためにすること以外には意欲を示さないようすが描かれている。そのため、あかりの母や姉もあかりことをよく思っていない様子であった。

そんな中で、「推し」がファンを殴ったという情報から、「推し」はSNSで炎上している状況であり、あかりはより疲弊していしまう。

勉強もうまくいかないため、学校も中退となる。しかし、あかりは就活を進めることができず、母親や父親から愛想をつかされてしまう。

祖母の死をきっかけに母の実家に一人暮らしを始めることになったあかりは、自分自身の不遇な状況を見つめ始める。

終盤

 一人暮らしを始めたにもかかわらず、就職活動は一向に進んでおらず、ただ「推し」のための日々を送っていた。

そんなある日、インスタライブをしていた「推し」が突然、引退することを宣言した。そして、あかりはそのことを受け入れきれないまま、「推し」の最後のライブに訪れることになる。そのライブが終わらないでほしいと願うあかりの思いもむなしく、「推し」はライブを終え、引退してしまう。

「推し」が引退した後、何もすることができずにいたあかりだったが、徐々に自分の姿を見つめだし、今の廃れ切った状況を一つ一つ治していこうと決意するところで物語は終わる。

「推し」についての解釈

 この物語でのあかりにっての「推し」は、私たちが想像するほど単純な存在ではないと思います。確かに、「推し」を恋愛対象と考えている人がいるということは一部語られていますが、それは本来の「推し」ではなのではないと思います。

では、あかりにとって「推し」とはどのような存在なのか。まず、「推し」のことを好きだとしても、それは恋愛対象としての好きではありません。主人公あかりは「推し」のことを丸ごと解釈したいと語っています。さらに、「推し」の見る世界を見たいとも語っています。

このことから、あかりにとっての「推し」は自分がなりたい存在と言えるのではないでしょうか。これは理想の人物というものでもなく、その人の見ている世界を見たい存在だと思います。

これは私自身の解釈であり、その解釈もかなり抽象的ではありますが、それだけ複雑で理解の難しい存在なのではないでしょうか。冒頭でも述べたように、感情移入するのが難しい理由はここにあります。

主人公の独特な感性

『推し、燃ゆ』の物語の情景はすべて主人公の感じた情景が文字に起こされているような表現になっています。そして、その表現はどれも独特です。日常の風景一つとっても幻想的な世界を見ているように思えます。

このことから主人公の独特な感性が見て取れます。そして、このような独特な感性や考え方を持っているからこそ、生きづらさを感じているのではないかと思います。

是非皆さんにも、実際に『推し、燃ゆ』を実際に読んで、主人公の独特な感性を感じ取ってもらいたいです。

全体の感想

この物語の全体的な印象は、主人公あかりの不遇な状況独特な感性「推し」に対する熱意などが表現されており、そこが魅力的だと感じました。

また、あかりの心の変化を追っていきながら、読み進めるとあかりに同情するような気持ちになりました。

しかし、最終的にはあかりが今の状況から立ち直ろうとする姿も見られ、感情を揺さぶられる作品だと感じました。

是非皆さんにもこの本を手に取って、実際に読んでもらいたいです。

 

 

また、今後はこのように書籍の感想・考察を積極的にしていきますのでよろしくお願いします!